06.05.06〜

おれの くるまにあ

Answer-くるまにあ

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○何をする気かというと

 クルマのこと、主にデザインのことについて書いてみたいと思う。

 デザイン − すがたかたちに対する人の嗜好というのはそれこそ十人十色で、正解というのはない。

 以前、徳大寺有恒氏がそういう声に対する反論を書いておられたが、一人ひとりが育ってきた環境、特に世代間の嗜好ギャップというのは氏が思っておられるほど小さいものではないような気がする。

 氏と同じ年代がファーストコンタクトを果たした車というと、進駐軍のアメリカ車などだろう。

 自分(昭和40年生まれ)の場合は、ものごごろつく頃にはすでに相当の国産車が存在していた。

 その頃印象的におぼえている車で具体的に思い出す車名は、たとえば日産のブルーバード(510)。少し後になって我が家に初めてやってきた車がダイハツのフェロー。

 ごく幼い頃に擦り込まれた印象は強烈なものだ。

 もしも、これだけ原体験の違いがあって、なおかつその後の判断基準が同じであったとすれば、それは奇跡としか言いようがない(と自分は思う)。

 たしかに自分は、氏のように趣味はよくない。

 見てきた世界も、年齢的なことを割り引いてもおそらく小さいだろう。
 だからどっちが正しいかなどと大言壮語するつもりはない。
 (そんな勝ち目のないこと!)

 まあ自分のような平均的(といってもそこは十人十色、他人から見たら偏りがあるのは避けられない)なクルマ好きが、デザインというものについてどういう言い分を持っているか、書いておきたいだけだ。

 以上、前説が多少弱気な点は流していただいて、このページの主旨説明を終わる。

(06.05.06)

○オリビエ・ブーレイ その1

 自分はオリビエ・ブーレイ氏の手がけたデザインを好むらしい。

 おそらく知る人ぞ知るという感じだろうが、ブーレイ氏は2代目レガシィのデザイン統括をした人物である。

 また最近では、ダイムラーの支援を受けていた頃の三菱で、デザイン部門の要職にもあった人だ。

 現在はどうなのか?・・・よくわからない。
 ただ、最近発売された「i」は作業こそ三菱本社のスタッフによるが、ブーレイ氏の支持という後ろ盾は得ていたようだ。


 自分はその、2代目レガシィのツーリングワゴンに乗っている。

 誰からも余計な口を挟まれない状況で選んで買ったのだから、気に入っていないわけがない。

 乗ってみるとアラも目に付いたが、それ以上に所有する喜びは大きかった。

 いま12年目となり、買い換えを考え始めているところだが、やはりレガシィ以外のクルマは考慮の対象にさえならない。
 (余談だが、アルファロメオ出身のデザイナー、アンドレアス・ザパティナス氏は現行レガシィのデザインには関わっていないらしい)


 そんな自分が一時、ミニバンを考えたことがあった。
 もちろんスバルにミニバンはない。

 何を候補に上げたかというと、三菱のグランディスだった。

 正直、このクルマの評価は芳しくない。

 三菱が例のリコール騒動の収拾に追われた時期のクルマであり、出だしはともかく、その後の開発にも力は入っていない。

 機能的にも他社のライバル、エスティマやオデッセイに数段劣ると言われるし、実際そうだろうと思う。

 でも、今でももしミニバンから一台を選ぶなら、自分にとってグランディスは有力な選択肢だ。

 もうこれは論理的な説明で理解してもらうことは無理だと思う。
 カッコイイ、そう感じてしまったからだ。
 それに尽きるからだ。

 そしてこのグランディスは、紛れもなくオリビエ・ブーレイ氏の血を持つ一台なのである。

(06.05.06)

○オリビエ・ブーレイ その2

 無理だ無理だで終わっては、このページを立ち上げた意味がない。

 わかっていることから整理していこう。
 お題はわがレガシィ・ツーリングワゴン(2代目)である。

 ブーレイデザインの特徴をありきたりに総括すると、スムーズでシンプルな面と形、と言うことになると思う。
 ただ、世にあるカッコイイクルマの2台に1台はこういうクルマだ。
 あとの1台は、奇抜でキャッチーな面と形を持つクルマだ。

 レガシィ2に限定して分析するとどうか。
 まず初代から継承したものを確認しておきたい。

 初代から、というか最後のレオーネからというのが正しいが、オールヒドゥン処理されたB〜Dピラーがある。
 ボディ外板よりもガラス面になじんだ処理を施し、ブラックアウトしてあるアレだ。
 Aピラーから後ろをグルリとガラスで取り囲んだような未来的な雰囲気が出る。
 (流面形セリカはさらにCピラーをラウンド処理して、一つのカプセル風にして見せた)

 このウィンドウグラフィックスを「サッシュレス」でまとめているのは、スバルの小型車としては常套手段だ。

 この処理は、犯すべからざるレガシィのアイデンティティとして、他社からも認められているようだ。
 露骨にこの処理をまねた日産のアベニール(2代目)は、他の部分のフィニッシュも相まってレガシィのパクリだと酷評され、以後これに追従したクルマは存在しない。

 次はこの2代目を特徴づける部分である。
 自分は、前と後ろが気になる。

(06.05.07)

○オリビエ・ブーレイ その3 〜レガシイの「前」〜

 前というのは、ヘッドライトとフロントグリルの相関的形状だ。

 80年代以降の異形ヘッドライトの多くは、その上縁が弧を描き、外から内に向かって角度を増しながら落ちてくる形状を持っている。

 このヘッドライトを前提にデザインすると、必ずグリルは「逆台形」になる。

 上が広く、下がせまい台形である。
 左右のヘッドライトではさまれた空間が、下に行くほど狭くなるからだ。

 一方レガシィ2はそうなっていない。

 正台形である。

 これは、先にグリルの形ありきでデザインしたからで、最初にあげたヘッドライトの上縁ラインはグリルにさえぎられて折れ曲がっている。

 スバルファンには有名な話だと思うが、この正台形グリルはスバル1000へのオマージュなのだという。
 そしてそのアイディアはブーレイ氏の発案であると、開発スタッフがあかしている。


 ここからはその正台形グリルに関する余談である。

 3代目レガシィもこの正台形グリルを継承した。
 だがこれは不幸な出来事だったと、自分は思っている。

 98年当時、世のデザインの潮流は、ヘッドライトとグリルに距離を持たせ、その間にボディ外板を見せるという傾向に定着しつつあった。

 テールランプをガーニッシュでつながずに左右独立にする(さらに内側のトランク見切り線に角度を持たせる)処理とこの「セパレートグリル&ライト」処理は、国内メーカーが一斉にメルセデスへ右ならえをした功罪だと自分は考えている。

 まだホンダのストリームやオデッセイに限定されるが、最近ようやくこの傾向を改めようという機運が出てきた。
(日産はすでに全然違う方向に行っている感があるが)

 このセパレート処理が、正台形グリルに合わなかったのだ。

 2代目と違い、セパレートにしたことでヘッドライトはグリル形状の制約を受けない。
 ために、ライトはごく一般的な形状でまとめられている。
 この結果、グリルが妙に浮いて見えるのである。
 ブタの鼻か、バイキンマンの歯ぎしりしている口のようだ。
 上下に厚い形状になっていることも、そのウィークポイントを助長してしまっている。

 この3代目レガシィに限らず、スバルはしばらくこの正台形グリルを採用し続け、しなくていい苦労の連続にあえいでいたように思える。
 2度もマイナーチェンジで大改造されたインプレッサのフロントマスクがそのいい例だ。

 4代目にいたってレガシィは、この正台形支持をトーンダウンし、正とも逆とも取れる六角形に近い形に造形してきた。
 主張は鈍るものの、これでよかったのだと思った矢先、今度は別の自縄自縛がスバルを襲う。

 スプレッドウィングス・グリルである。

 すでにR2はこれに見切りをつけようとしているが、現レガシィのマイナーチェンジでこのグリルがつかないことを願うばかりだ。

(06.05.07)

○オリビエ・ブーレイ その4 〜レガシイの「後ろ」〜

 いつまでレガシィの話を続ける気かと言われそうになってきた。

 最初に書いたとおり、レガシィ話をするためだけにこのページを作ったわけではない。
 もう少しの辛抱なのでおつきあいいただけたらと思う。

 さて今度は「後ろ」である。

 セダンとワゴンでは処理が全く異なるので、ここではワゴン限定の話をさせてもらう。

 レガシィ2ワゴンのテールは、左右両端にコンビネーションランプをひとかたまりにして載せることで成立している。
 たしか開発者たちは「おにぎり」と形容していたと記憶するが、この2つのおにぎりがリアウィンドウにめり込むぐらいの高さに設置されている。

 また余談になってしまうが、これは自分はあまり気に入っていない。

 横から見るときはまあまあだが、真後ろからだと肝心のおにぎりはほとんど見えず、おにぎりの間をつないでいるガーニッシュが見えるだけで、そのデザインに芸がないから間延びしてしまっている。
 たしかに特徴的ではあるが、テールはむしろ3代目の方がうまくまとめていると思う。

 閑話休題。

 ここで述べたいのは形よりむしろ、その高さだ。

 例のアベニールのデザインを徳大寺有恒氏がやり玉に挙げた際、このテールランプを最大の問題かのように書いておられた。

 力を込めて言う。
 とことんレガシィをコピーしたアベニールのデザインにあって、このテールランプだけは全然似ていない。

 リアウィンドウとテールランプの間にボディ外版があるではないか。
 先に述べたとおり、レガシィの場合は両者はめり込むほどに密着している。

 アベニールのテールランプの位置は低いのだ。

 最近リリースされた新型ウィングロードを見たとき、自分は「これがデ・ジャ・ヴーというヤツか」と落胆した。
 必然性を全く感じないテールランプの位置。

 目・鼻・口のパーツは完璧でも、位置がおかしければこれはもう福笑いの世界である。
 中途半端は格好悪いものだ。

 レガシィは現行4代目に至るまで、形状はともかく、このテールランプの位置取りは絶妙だと思っている。

(06.05.08)

○オリビエ・ブーレイ その5 〜まとめ〜

 もう少し、もう少しと言ってはレガシィ話を引き伸ばしいる。
 これではせっかく見ていただいている方に、引き際を考えさせることになってしまいそうだ。
 自分にプレッシャーをかける意味で、少し予告をしておこうと思う。

 今後は以下のようなテーマを取り上げてみたいと思っている。

  ※ 「間違いだらけのクルマ選び」の読み方
  ※ キドニーグリルはかっこいいか?
  ※ インプレッシヴな自動車評論家
  ※ ホンダVSマツダ〜五角形争奪戦

 少しはホッとしていただけただろうか?
 では今のうちにレガシィ、もといブーレイについての話をまとめてしまおう。

 レガシィ2のデザインの概略を洗い直してみた。
 さて、同じブーレイ氏を親に持つ三菱車群との関連はどう総括できるだろうか。

 ここまで書いておいて言うのもなんだが、肝心の共通点があまり見いだせない。

 自分の中では独特の間というか、一脈通じるものを感じるのだが、それを人に言ってみても始まらない。

 そんな中で、顔にこだわりを感じさせる点は挙げてもいいかも知れない。

 三菱デザインに関しては、自動車雑誌などで「ブーレイ顔」という言葉も生まれたぐらいだ。
 ただし、その響きにはあまり歓迎ムードはなかったのであるが。

 また、独りよがりといわれても反論の材料に乏しいが、動体としての車体デザインの中で、前から後ろへの流れを大切にしている点を上げておきたい。

 グランディスやコルトなど、モノフォルム車では特にそれを強く感じる。
 決してブーレイ流のセオリーがあるわけではないが、けっこう特異なまとめ方をそれと感じさせずにやり遂げている。

 グランディスではルーフとベルトラインの通し方、両者が最後にテールランプで融合するフィニッシュなど、ちゃんと観察すればかなり見応えがあるものだ。

 コルトの場合は、ルーフラインの起点となるヘッドライト周辺の処理が周到だ。
 冷静に見るとかなり前のオーバーハングが長いのだが、それを巧みに隠して、見事なモノフォルムに仕上げている。

 レガシィ2のインテリアにおいて氏は、フロントタイヤの位置を意識したドアライニングのデザインを指示したという。
 三菱のブーレイ・カーたちは、タイヤを意識してルーフを引き、テールの処理を見越してフロントエンドをまとめたのであろうか。


 最近持てはやされているデザインはアルファ・ロメオ調や、アメリカ人デザイナー、クリス・バングルのBMW調だ。

 レガシィにしても現行型は、鷹の目をモチーフにしたというヘッドライトや、ベルトライン直下のエッジの立ったキャラクターラインなど、BMWの影響がありありと見える。
 レガシィという単一車種のデザインにおいても、その時代時代でテイストは変わる。
 世の習いというやつで、拒否してばかりもいられない。

 だが一方で、やや鈍重な印象の3代目よりは、ブーレイ氏の手がけたスマートな2代目の面影を強く感じさせはしないだろうか。

 こう考えるとBMW調も正直悪くないと、自分は思っている。

(06.05.10)

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