要介護者における歯牙・補綴物等の誤飲・誤嚥リスク管理の検討
日本歯科医療管理学会中国支部 平成21年度学術大会 「今、歯科医療に求められるもの」,島根県歯科医師会館,2009年11月8日.

○齋藤寿章*、影山直樹*、上代一人*、梶原光史*、角 篤*、前田憲邦*、吉田達彦*、吉川浩郎*、齊藤正臣**、大森 学**、松浦良二**、錦織達郎**、佐々木良二**、園山 学**
*島根県歯科医師会地域福祉部
**島根県歯科医師会医療管理部

 8020運動も今年で20年を迎える。残存歯数や8020達成者率では、その成果が数字として現れている。また、要介護者への口腔ケアについても、口腔疾患の予防、誤嚥性肺炎の予防、口腔機能の回復のために普及・啓発活動が行われ、他職種の方々にも口腔ケアの重要性が認識されつつある。
 島根県歯科医師会では、多くの職種の方々を対象に口腔ケアの研修会を行ってきた。平成21年3月、地域の歯科医師会主催で行われた口腔ケア研修会への参加者から歯科医師会へ、以下のような要望があった。
・ 県内医療機関や福祉施設へ入所中の方の口腔内に残存する歯や補綴物が原因で、健康を傷害するような過去の発生事例について調査して欲しい。
・ そういった過誤による訴訟や対応についても、事例があれば調査して欲しい。
・ 合わせて、リスク管理についても指導して欲しい。
 この要望に対して、障害者・高齢者の口腔公衆衛生活動を行っている地域福祉部が対応することとなり、健康被害の重症度が高いと思われる歯牙・補綴物等の誤飲・誤嚥について検討することとした。また、インシデント、医療事故、医療過誤、リスク管理といった領域が含まれることから医療管理部の協力を得ることとした。まず、地域福祉部委員と関連歯科医師から歯牙・補綴物等の誤飲・誤嚥の報告を募った。7例の報告があり今回これをもとにリスク管理の検討をした。
 近年、食物による気道閉塞が原因で死亡する事例が増加する傾向にあるといわれる。また、脳血管障害後全期間の嚥下障害は報告がさまざまであるが、22〜65%とされている。さらに、病院での食事中の誤嚥・窒息への損害賠償責任が問われる時代でもある。歯牙・歯冠修復物・欠損補綴物の他、清掃用具のリスク管理の検討も望まれている。
 今後さらに、調査・検討していくべきであるが、歯科医療だけでなく、医療・看護・介護の立場も勘案しなければならない。日本医師会の「医療におけるリスク・マネジメント」(平成10年)では、「医療事故を予防するための視点」のなかで「医療において特に考慮すべき視点」として、
・医療を担う者としての基本的な姿勢を再認識する
・マイナスの情報を隠さず詳らかにする習慣を育てる
・原因追及の作業を「犯人探し」で終わらせてはいけない
・正確な情報に基づき事故予防システムを構築し活用すること
を挙げている。こういった視点に立ち、口腔に関わるリスク管理の情報を今後とも提供していきたい。


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