島根発、山里インディーズ「食」工房
「真砂のとうふ」をつくっている有限会社 真砂、
ミニマム企業の心意気(2009.8)



イッツ ア スモールサイズ 「ボク 小さいんです。」

 (有)真砂は小さい。建物は、たてよこ30m×20m、資本金310万円、売上高は2000万円台半ば。しかし、この規模に実はこだわってます。2009年現在、益田市内のスーパー十数店舗で「真砂のとうふ」は販売されていますが、おかげさまで、一日に製造する400丁程度の豆腐はすぐに売り切れです。
 現時点で事業の拡大は視野に入れてません。自然豊かな山里で稼働しているため、もちろん自然環境に配慮しています。しかし主な理由は、現在直火の平釜による豆乳煮沸工法を採用しており、実はローテックな工法なので、かならずしも最新の工法より、よい豆腐ができるというものではありませんが、この現在の工法による味わいを大切にしたいと考えています。風呂釜のような釜で、一日7回程度、早朝より愚直に豆乳を煮ています。あえて豆腐の製造プラントは導入せず、このやり方、この小さい規模だからできる「あじわい」、逆に言いますと、機械化や高品質化にはない「あじわい」を、食味の多様性の維持という観点から、継続して地域の皆様に供給していきたいと考えます。

こだわりはB級

 我々のこだわりはB級です。よりよい豆腐を作りたいなら、よい大豆とよい水、よいにがりを取捨選択し、腕を極めて精進・・・これしかないでしょう。そこで、まずぶち当たるのは、我々は地元は島根県石見地方の大豆のみを使用して豆腐を造っているということ。実は石見地方、山がちな地形で平地は少なく、大豆の生育条件もマチマチで、そこで生産される大豆の品質もばらつきがあります。つまり、われわれは品質が劣ろうが、自分たちのそばで育てられた大豆をとにかく使って豆腐をつくるわけで、もっと言ってしまえば、おいしくない大豆でも地域で生産されたものであれば、見捨てることなく加工しようという「こだわり」を持っています。
 地元の日替わり大豆と、真砂の水、時間はかかるけれど、ゆっくり凝固させ、味わいがしっかり残るナチュラルな「にがり」。つまり、おいくしない大豆のときには、しっかりとその味が残ってしまう豆腐。けれども、もともと食べ物ってそういうものだったのではないでしょうか?いつの日か見渡せば私たちの周りには、スタンダードで、すっきりしていて均質な味覚ばかりになっているような気がします。わたしたちのこだわりは「おいしさ」のベクトル追及からはあえて脱落しているわけですが、食べ物をつくる過程に関してはしっかりとこだわっていきたいと思います。

「成功」する、その前に・・・

 我々の活動拠点は中山間地域。全国の中山間地域のほとんどがそうであるように、私たちの真砂地区も過疎の地域である。そんな過疎の地域の中には、地域おこしや住民活動を通じ、地域資源を活かしたり創出し、経済的に「成功」した地域もある。しかし、そういった事例に関しては実は一部であり、中山間地域のほとんどは停滞もしくは衰退に向かっている凡庸なる山里なのではないかと思う。
 わたしたち真砂の住民も、住民有志24名により(有)真砂をたちあげ、山里の活性化を謳ったわけだが、果たしてその成果とはどのようなものなのだろうか?設立は2000年、来年で10年をむかえる活動の中で「真砂のとうふ」は2009年、地元「益田市」の「益田ブランド」として認められ、小さいながらも地域の方々にはそれなりに名前も浸透してきたように思う。しかし、我々のこれまでの活動だけで、真砂という中山間地域の問題を解消できたとも思っていないし、今後も解決できる見込みもない。
 しかし有史以来、綿々と人はここに暮らし、この地を守ってきた。そこには「成功」も「失敗」もない。この悠久の時間を想うとき、先人たちが地域を守るための営為を受け継いできた、その「つなぐ」という意思と、自然が自然のままであろうとする、そのせめぎ合いの結晶が今の山里の風景なのだと思う。
 わたしたちが灯した豆腐製造という灯はまだ小さく歴史も短い。こんなことをはじめたからといって地域が存続するとも限らない。ただ、目先の「成功」にとらわれるのではなく、この灯火を先人たちと同じように伝えていくこと、そしてその営為を通して、山里の位相をみつめていくこと、それがわたしたちの願いでもある。
 実は案外よい光景をわたしたちは、すでに眺めているのかもしれない。

地域で愛されるローカルブランド
益田でしか有名


 我々は全国展開は全く想定しておりません。通販もやりません。(まぁこのレヴェルじゃ出来ないというのが現実的な理由ですが。)わたしたちは地域で愛される豆腐屋であり続けたいと思います。益田でしか食べることができない、益田にこなきゃ食べることができない、そんな豆腐。ふるさとを想うとき食べたくなる豆腐、益田を訪れた人に「益田には、こんなちょっと変わった豆腐があるんよ。」と、出してもらえるような豆腐。田舎の昔ながらの造り方で、石見のきまぐれな大豆の味がそのままで、ときには不具合もある「ヘタうま」豆腐、それでも地域の皆さんに、われわれの「こだわり」に免じて食べ続けてもらえる豆腐。全国的には無名で、益田の人はみんな知っている豆腐。インディーズの形態にこだわり、インディーズならではの味わいと、カッコよさが両立したポップロックみたいな豆腐。そんな豆腐にわたしはなりたい・・・

ローカルサイクル/ローフードマイレージ 

 我々の経済活動はローカルなサイクルを意識しています。地域内でのマネー循環を、まぁ我々の規模ですから影響力は少ないかもしれません。しかし、地域外の「外資」依存の地域経済の構成ですと、地方経済の動向はいつも「外」の波次第です。やっぱ地域内にお金がとどまる仕組みをもっともっと地方では考えなくてはならないように思います。そのためのアンテナ的な役割を示したいと考えます。また、経済ももちろんですが、文化を含めたレヴェルで、ローカルでありつつも価値形成を不断に行っていく、そんな動きが求められているように思います。
 また、われわれは地元石見地方の大豆を使用し、地元で商品も消費、おからなどの廃棄物も地元で堆肥化する処理を行っており、フードマイレージの少ない商品を目指しています。
 地元で商品、貨幣、価値を循環させ、結果的にエコである、そんな企業活動を念頭に置いています。(tofuman)



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