1場
結団式 〜 おまえは暗黒の妖怪になるのだ!

 忘れもしない10月4日。
 「しまった〜、あの日いつものように寝てしまうんじゃなかった。マイガッ!」意味のない後悔を得意とする男であった。
 受付で台本と楽譜を手渡される。この時、文化会館のS・石倉氏に
妖怪ということでよろしくお願いします。」と言われた男はしかし、
4階」と聞こえたため意味が分からず、2、3回聞き返していた。自分が何をするのか把握していない。ヤバい…。
 大ホールにて、出演者や指導の先生たちが一同に会してまずは自己紹介。この時点で知人はわずか2〜3名。その中の1名は、男に「この件について明日までに…」と言った、職場の上司であった。しかし、いつもの上司と部下も、ここでは同じ暗黒の妖怪。「無礼講じゃ!」なぜか宴会モードに突入する男であった。

パート分け 〜 バス&タクシー、ちがうって

 結団式の後、すぐに妖怪のキャスト陣は男女に別れて発声・歌練習。この時はじめて、男は自分の置かれた状況を思い知らされることになった。
 目の前の楽譜には、黒や白のオタマジャクシたちが整然と鎮座ましましている。
 「これはミュージカル…、つまり、歌を歌わなければならないと言うことか?」
 そりゃそうじゃ、早よ気づけ、くびなが竜、考え得る限りのツッコミを自らにたたき込む男の姿が105号楽屋にあった。
 楽譜を見て歌うなんてことは中学の音楽の授業以来だ。あの時の音楽の担当は広兼という先生だった。そういえばさっき広兼という先生がいたな。若かったが似ている、まさか…。いや、正確に言えばこんなことを考える余裕を、男はとうに失っていた。
 ところで、合唱はパート編成抜きには成り立たない。ところがここに、
「テノールはこっち、バスはこっちに別れて。」と言われてうろたえる男がいた。
 合唱指導の内藤先生(「やりたくない〜」死神3)に、「自分がどっちか分からない人はいますか?」と問われて手を上げたのは、男だけであった。その部屋のテンションが、自分のせいで下がっていくのを男は感じていた。「さむ〜」

午後でも「おはようございます」

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