4場
卓先生登場
11月最後の週末。男は職場の旅行もキャンセルして文化会館のステージにいた。もはやシンドくてもサボれない心境である。皆、そうに違いない。そこに居る誰もが緊張の面持ちである人物を待っていたのだ。
その人の名は山田卓。「たく」じゃなくて「たかし」、「すぐる」じゃなくて「たかし」である。なんて言いながら気がつくと、さっきからさんざん呼び捨て状態じゃないか!注意せねば…。
当時、男は「CATS」も「ジーザスクライスト・スーパースター」も知らなかったが、偉い人だということは聞かされていたので、巻かれる準備をして長いものが来るのを待っていた。
「みんなで和気あいあいと楽しく頑張りましょう。」
卓先生は挨拶でそんなようなことをおっしゃった。体調が思わしくないらしいのだが、そうは言いながら松江公演も含めると5年間で7回目の島根入りである(もちろん1公演1回ということはないから、たぶん20〜30回目だと思う)。さらにこの後、翌11年7・8月の松江公演も手掛けておられる。何だかだ言ってもクリエイティブな人はパワーがある。こういう人に練習を見てもらえるだけでも、やってる人間の自信が違ってくるというものだ。
妖怪軍団が特に要求されたのが、振付より歌に重きを置くことだった。考えてみれば汚染舞踏の場面で観客の目を集めるのは、木村先生率いる汚染舞踏ガールズ(+1ボーイ)なのだ。しょせん俺の踊りなんざ照明の外さ、といじけてみようかとも思った男だったが、目立たないからって手を抜くのも何かシャクだ。目立たなきゃ目立たせてやろうじゃん!(うまくて目立つとは限らない)音楽監督・陶山先生の「もっと声を出して!」と言ってるのであろう(歌ってる最中に言われてもわかりませんって!)声が飛んでる。それに応えいでか!とキイキイ声を振り絞る男は、歌と踊りの二兎を追う、悲しきハンターと化していた。へたな鉄砲も数打ちゃダダはずれ。
|