5場
 衣装合わせ 〜 は、針金が…

 12月に突入した。大ホールは一転、仮装パーティの様相を呈していた。はじめて、衣装を身につけての練習である。
 東京の、確か江東区で上演された「あい地競」が前夜、BSか何かで放送されたようで、そのビデオが控え所のモニターで流れていて、妖怪軍団がその前に陣取って、あーだこーだとさえずり合っている。
 その時はハイになっているので何とも思わなかったが、今考えると異様な光景だ。全員黒ずくめで、頭はギザギザ、これカルト集団ちゃうの?状態。しかし掃除のおばちゃんたちは泰然としたものだ。ここではこれは何げない日常なのか…。もっとも一度、詰め所の扉のとこで鉢合わせした時はさすがにおばちゃん、ひいてましたけど。
 妖怪のマスクは鼻の高さまでが覆われる作りで、終端部分は針金で補強されている。男のマスクはこの端ッコ(耳の下あたり)で袋縫いがほころびていて、針金が露出しがちであった。何が言いたいかというと、ラストシーンで、妖怪軍団は瞬間的に黒装束を脱ぎ捨て、天使にならないといけないのだ。
 東京の卓先生にチェックしてもらうためのビデオ撮りでのこと。問題のラストシーン、首領の「ぎゃー!」で両手を拡げて大転回…、決まったーと思った途端、金切り声が飛んだ。木村先生だ!血相かえて…。
 「え?おれ?」
 男の頭には脱ぎ捨てたはずのマスクが載っていた。マスクの針金と、素頭に巻いた三角巾がハード・フッキングしていたのだ。角の生えた天使、この画は笑えるで…。
 「卓先生、喜んでいただけましたか?」

田村指揮必殺!口ドラム

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