温泉津旅情19 
津和野城主亀井能登守様御入湯
湯治保養滞在記録より

これは、今から二百二十八年前、安永七年(1778)五月十六日から二十九日まで、十三泊十四日、津和野藩の殿様の御入湯があった話。御汲み湯搬送御断り後、御入湯のご意向あり、御来駕前の津和野藩領内の羽佐村、日貫村、下来リ原村の各庄屋、これらの衆中の外、世話方人の見積り(下見)、御迎えの準備、入湯滞在中の日記、返礼津和野城参上などの記録がある。その中の一部である。

殿様御来駕の前日(五月十五日)、当所役人中より町内への廻し文の写

一、此間申し話候通り、火の本入念町内において他所人へ無礼これなき様致さるべく候

一、亀井様いよいよ明日、当地へ御着きの由にこれあり候、当地に御入り御通りの節は内庭へ筵を敷男女共に平伏致し申さるべく候、小路などにおいて立ち見決して堅く無用

一、町筋裏町まで掃除致さるべく候、尤も町筋は盛り砂いたし、ほうき目付けられるべく候、御着き節、
夜に入り候ハバ、ちょうちん町筋の家には残り無く相もし申さるべく候、尤も、掛け行燈あんどんにては相成り申さず候

右の通り組頭中より組下の者へ急度申し付らるべく御座候 以上
  役人
組頭中
五月十五日

十六日には町内掃除盛り砂など致し候、お迎えには当所役人中御三人、御本陣宿平左衛門殿、湯主重蔵、上下にて供壱人ヅツ召し連レ、小浜口御番所前まで参り銘々名札し上げ申し候、小浜口御番所には、厚藤仙七様も上下にて御出家老中へ御挨拶なさられ候、尤も七ツ時分(午後四時頃)よりお迎えに罷り出で候処、御着隙き取り夜に入り申し候、これより町筋の家にはちょうちんもしまかり申し候中、以上の衆ハ、箱ちょうちんにて浜までお迎えにまかり出、お通り筋両方へ皆々並び居り申せられ候、夜五ツ過ぎ(午後八時過ぎ))、御着き遊ばされ候ところ、早速御入湯遊ばされ御本陣へ御帰り遊ばされ候て、それより御本陣方へ湯御汲み取り、これは御腰湯遊ばされ候由承知仕り候、

十七日朝又々湯汲みに遊ばされ候、同日、九ツ時分(午前十二時頃)御入湯、揚がり場にて御休息遊ばされ弐度お入り遊ばされ候、それより七ツ時分(午後四時頃)御入湯、度に御駕籠にてお通い遊ばされ、湯へ御出で遊ばされ候前には宿々へ御ふれこれあり、御家老表御用人の外は、度々、御供遊ばされ候、尤も御側おそば御用人、御医者方、御側衆中、小姓御カチ衆、茶道坊、その外長刀なぎなた持ち、お茶べん持、御ぞうり取り、六尺、これらの衆中、度々御供にて候

二十日朝五ツ時、八ツ時(午後2時)御入湯遊ばされ、それより浜手へ御出遊ばされ、船にて笹島まで御出遊ばされ、殿様御望み遊ばされ候由に付き、当所若き者共四五人ヲヨキ申し候由に候、暮前に御戻り遊ばされ、直に御入湯

二十六日には、五ツ時(午前八時)、九ツ時過ぎ(午前十二時過ぎ)御入湯遊ばされ御駕籠にてすぐさま日祖所御見物に御越し遊ばされ、二タ町へ御通りなさられ磯釣り遊ばされ暮方に龍沢寺おく道通り御戻り遊ばされ候、同夜五ツ時(午後八時)又々湯ニ御出で遊ばされ候、この日、津和野様より大森への御使者には佐々布助之進様上下十七人連れにて御出でなされ候、

二十七日には、五ツ時(午前八時)、九ツ過ぎ(午前十二時過ぎ)、六ツ時(午後六時)、夜四ツ時(午後十時)、御入り遊ばされ候、御本陣御家老御用人様方へは毎日、はおり、はかまにて、御機嫌窺いに罷り出で候、此日、御本陣御台所にて御吸い物、御肴にて御酒頂戴仰せ付けられ候、

二十八日五ツ時(午前八時)、九ツ時(午前十二時)、御入り遊ばされ候、湯わき口御覧なさられたき由仰せ聞かされ御留湯よりすぐさま堂まで御歩行遊ばされ湯口御覧に入れ申し候、それより御駕籠にて御帰り遊ばされ、又々七ツ時分(午後四時頃)御入り、

二十九日、五ツ(午前八時)、九ツ(午前十二時)、七ツ時分(午後四時頃)湯ニ御出で遊ばされ候、三十日には、天気次第にて御出立遊ばされ候趣の由、二十八日昼より江津の渡、聞き合に御人遊ばされ候由、承り候ところ、水増し候テ渡りこれ無き様申し帰り候、二十九日昼時分、日貫組より歩き人足百余人御迎えに参り候えども、江津の渡り無心の由、御出立つの程、相知れ申さず候に付き、まかり帰り候、津和野高津屋より参り候人足は、滞留仕り候、此日には朝、五ツ時(午前八時)、九ツ(午前十二時)、八ツ半時(午後三時)、暮方に湯ニ御入り遊ばされ候、

六月朔日、朝江津より御飛脚参り候処渡りこれあり由にて候、沢右衛門様にも、殿様、御出立の程御本陣へおうかがいに御出なされ候由、明日と申しても又々水出候えは、いつ迄の滞留に相なりべくや、先の程知り申さず様仰せられ候由にて弥、今日御出立遊ばされ候ことに、相極まり候旨、俄かに宿宿へも御ふれこれあり、下宿各様方早速御荷物など御仕舞なされ、殊の外俄かにザザメキ申し候、今日御立に候間、私義上下にて御本陣へ罷り出で候様知らせこれあり、御立ち前、ゲンカンの間まで召し出され御赦し御礼目録頂戴仰せ付けられ、沢右衛門様、茂左衛門様より御挨拶これあり候、

尤も初メニ、キズヤ平左衛門殿出られられ、その次に当町役人中三人召し出され何れも御赦し礼下され候、右御用目録銀所沢右衛門様宿、紺屋又左衛門方へ参り久右衛門様へ罷り出で候処御目録引き替えに銀子遣わし候て受納仕りまかり致し申し候、御目録願い請候て然るべく殊に候様存じ候ところ、何かと取り紛れその節、左様の気も付かず銀子引き換えに相成り申し候、此日四ツ時分湯ニお入り遊ばされ湯場より直に御駕籠に召連れ御出立遊ばされ候、御見立てには小浜番所脇、瓦屋先、茄子畠にて平伏致し居り申し候処、殿様御通り遊ばされ、御カチ目付け小野寺丹助様より木津屋平左衛門、湯本重蔵御見立ちに罷り出で候様殿様へ御申し上げられ御駕籠の戸半分御中小姓衆御明けなさられ候、当町役人衆は瓦屋前まで御見立ちに参られ候、

小浜御番所様にはゲンクワン先にて御暇を乞いなさられ候跡、押さえには、御家老磯江嘉藤次様、さて又、沢右衛門様には当所浜まで御供ぞろいに御出、又々宿所へ御戻りなさられより御出立、小浜瓦屋前えにて暇乞い申し上げ候、御番所前にては駕籠より御出てなさられ候、殿様御逗留の中二十八日には御前細工ビイドロ、カンザシ三本緒〆弐ツ下し置かされ候、尤も、右の品は弘中勘兵衛様へ御渡しくだされ候、同日山根久蔵殿より、菊何かと草花持参致され候間、右御礼に罷り出で候ついでながら草花献上仕り候、

(藤昇)

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