16. 遣明使
雪舟が明国に入ったのは足利義政の第２回遣明使派遣の時である。大内教弘も大内氏の船を使節団に加えようとして、居座に起叟永扶（きそうえいふ）や大通寺の通懌（つうえき）、副使に桂庵玄樹をたてて遣明使節団は成立した。玄樹は雪舟よりも７歳年下である。山口に生まれ、幼い時から京都の南禅寺に入り禅と儒学を修めていた。山口には水西寺に牧松周省がいて、雪舟とはじっこんの仲になっていた。
雪舟は山口に滞在中恵鳳と再会して玄樹に会い、天与にも会えるという機会に恵まれて、雪舟の使節団参加もこのような友人関係からスムーズに決定した。
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運河の引き舟 |
17. 天童寺
寧波（ニンポー）に着くと雪舟は遣明使の常識的なルートとして天童寺に登った。この年、応仁元年（1467）、明では憲宗の成化３年にあたる。天童寺は禅の修行道場で宋になって五山に数えられ、栄西、道元らもこの寺で修行している。雪舟はこの寺で天童山第一座に推された。雪舟の仏画の表現、禅への世界観そして彼の品性から推してみると、第一座にふさわしいものがあったようにも思える。正使の天与清啓が乗船した細川船はその翌年になってやっと入明したので、すでに先に着いていた雪舟は彼らと同行して、北京に上り、遣明使としての役目を果たした。
雪舟は明国の成化４年５月から翌5年２月まで北京に滞在したようで、この間に張有声（ちょうゆうせい）や季在（りざい）の二人に会い、設色と破墨の技術を学んだが、期待したほどの画家が明国にはいなかったことを述懐している。
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天童寺仏殿 |
18. 唐土
雪舟は明国でかなり多くの絵を描いた。その中でも北京の礼部院の中堂に壁画を描いたことは有名である。北京滞在は実質的には１年であるが、この間に雪舟は明の風物、習慣、あるいは宮廷画人と交流するなど広く実物を観察することができた。寧波から北京に通じる運河を往復するとき、雪舟は両岸に展開する風景のスケッチに余念がなかったのである。
「唐土勝景図巻」は縦28㎝、横7m35㎝の長巻で、その中に中国の大自然がパノラマ風に克明に描かれている。この図巻は現在、原本が失われているが、雪舟が帰国した時、弟子たちの間で模写されたものが残っている。
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唐土勝景図巻の中に
描かれている大湖 |
19. 金山寺
雪舟が中国で大いに感銘を受けたのは、中国大陸の膨大な広さと迫り来る自然の厳しさであった。彼は相国寺における修行時代に中国の山水画の模倣に明け暮れしていたことを考えるとき、いかに雪舟の心に中国の風土を見たいという願望が焼きついていたかが想像され、目に触れる物すべてをスケッチしておこうという雪舟の意欲のほとばしりを知ることができる。
中国で寺院をスケッチした1つに「図巻」中の金山寺があるが、よほど印象に残ったと見えて、帰国後も丹念に厳しく描いている。この絵は謹厳な筆法で山上の楼閣や奇岩が正確に、寺院は設計図のように精密である。原本の「唐土勝景図巻」を見るかぎりでは、このように詳細に描くことは不可能に近い。恐らく雪舟はこのスケッチをヒントにして心の目で描いたものであろう。
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金山寺 |
20. 宝帯橋
雪舟筆「唐土勝景図巻」の中に呉江の街に続いて宝帯橋と書き入れのある石橋が長々と克明に描かれている。この宝帯橋は蘇州の東南郊外3km、呉県長橋にあり、花崗岩の５３孔の半円アーチ橋である。
雪舟の図巻は長さ7m35cmであるが、この宝帯橋のスケッチに１m80cm、およそ4分の1のスペースを使って鮮明に描いているということは、いかにこの橋に対する印象が強かったかが分かる。
この橋に対する故事を聞いた雪舟は、自分を犠牲にしてまで、人のために尽くした役人の尊い姿に心打たれる物があった。そのように考えると、この図巻は単なるスケッチではなく、その橋の上で綱を引く人々の喜々とした歓声まで聞かれるようなほのぼのとした絵巻となっているのだ。
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宝帯橋 |
21. 山水図
雪舟が入明中に描いた代表的な絵に「四季山水図」4幅が残されている。
雪舟の「四季山水図」はまさに季在風で、岩や山を重層的に畳み込み、岩の皺（しわ）や輪郭は奔放でしかも縮むように湾曲して描いており、周文派に見られない中国的な画法を見せている。
雪舟は明朝画壇を期待して渡明したはずであるのに「揮染清抜の者はまれである。」と言い切った心情には、あるいは期待はずれの実情があったかもしれない。日本の画壇が宋元風といっても、せいぜい断片的な表現にすぎなかったことを知った雪舟は、宋風なものを求め、殊更、張有声や季在に接したといえよう。
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